私的血統論

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Xファクター 第1回 『Xファクター』とは何か

旧ブログでも扱ったが、今後このブログでも何度か『Xファクター』的な考え方が出てくることが予想されるので、過去のアーカイブとして全5回に分けてアップしておく。

そもそも『Xファクター』とは何か。

自分が初めてXファクターを知ったのは、十数年前にケンタッキーのセリ市に行った際、現地の本屋で見つけたMarianna Haun著の『X FACTOR:What it is & how to find it:The Relationship Between Inherited Heart Size and Racing Performance』という本を手にしたときである。

副題『心臓サイズの遺伝と競走能力の関係』というフレーズを見ただけで興味を持ってしまい、とりあえず購買して後でじっくり読んだ。

この本は、Secretariatの活躍と死後の解剖のことから文章が始まっている。

Secratariatの心臓は、解剖を担当した獣医の推定によれば約10kgの重量があったらしい。

この重量は、通常の競走馬のそれに比べて約2倍の重さだ。

また、Secretariatの競走馬時代のライバルShamもその死後に同じ獣医によって解剖されたが、Shamの心臓重量は8.2kgだったという。

こちらも通常の馬よりもはるかに大きい心臓である。

一方、オーストラリアにおいては、名馬Phar Lapもまた大きな心臓を有していたらしく、その重量は6.4kgだった。

ちなみに、原著では重量の単位はポンドになっているが、自分はキロのほうが慣れているので、この形で話しを進めていきたい。

注目すべきは、SecretariatとShamの母の父がいずれもPrincequilloだった点である。

Princequilloはブルードメアサイアーとして非常に優れた成績を収めて、米国では8回リーディングBMSに輝いている。

オーストラリアでは血統やそれに関する遺伝学も活発に研究されているようで、この国の研究者たちはSecretariatやShamなどの例から『心臓の遺伝はX染色体を通じて伴性遺伝(性染色体上にある遺伝子による遺伝)するのではないか』と推測した。

競走馬には、Y染色体とX染色体という2種類の性染色体がある。

牡は、Y染色体とX染色体を1本ずつ持っている。

牝は、Y染色体は持っていないが、その代わりにX染色体を2本持つ。

産駒が生まれる際、種牡馬はYかXのうちの1本を、繁殖牝馬はペアのXのうち1本を伝える。

このとき、種牡馬がY染色体を伝えれば牡馬が、X染色体を伝えれば牝馬が生まれる。

つまり、性別の決定は種牡馬の側に委ねられる。

繁殖牝馬は2つのX染色体を持つが、1つは父側から、もう一つは母側から受け継ぐ。

繁殖牝馬がどちらのXを産駒に伝えるかという点については、まさに神のみぞ知るというところだが、いずれにしろ母馬は産駒にX染色体しか伝えないのである。

これを踏まえてSecretariatとShamについて考えると、大きな心臓を持つこの2頭の血統面における共通項は、BMSにPrincequilloを持つ点にある。

2頭にとってPrincequilloは母側にあるのだから、もし大きな心臓とPrincequilloの間に遺伝的な関連性があるとしたら、その特徴は伴性遺伝という形でX染色体が関係していることになる。

『X FACTOR』の本のなかで、遺伝学者のGus Cothran博士はこのように述べている。

『…もしオーストラリアの研究者たちが言うように心臓の大きさが伴性遺伝するとしたら、その特徴はある一つの原因に辿りつけるような遺伝子の突然変異によるものだろう…遺伝子の突然変異というものは、何百年経っても変化するものではない…』

この考え方を背景に調査した結果、Pocahontas(1837)という牝馬と通じてSecretariatと1764年生まれの名馬Eclipseの間に遺伝的関連性が認められたという。

Eclipse

Eclipseは今から200年以上前に生まれた馬だが、当時は名馬を埋葬する際に心臓、蹄、睾丸そして耳を切り取る風習があったらしく、記録によればEclispeの心臓重量は14ポンド(6.4kg)であった。

Eclipseのその大きな心臓は、Cothran博士の言うように突然変異の産物として備わったのだろうか。

さて、そのEclipseの心臓の大きさが、200年以上の時を経てSecretariatに受け継がれたというのだ。

そして、その遺伝径路上にはPocahontasという牝馬が深く関わっているらしい。

Pocahontasは33歳まで生きて、20年間も繁殖生活を送った生命力にあふれた馬だった。

Pocahontasの血統を調べると、父方と母方のそれぞれ7代目にEclipseの娘Everlastingの名前を見つけることができる。

Pocahontasの血統におけるEverlastingの位置は、X染色体の遺伝径路(原著ではこれを『ハートライン』や『Xライン』という名前で呼んでいる)上にある。

このことから、Pocahontasが持つ2つのX染色体には、いずれもEclipseの大きな心臓を受け継ぐ遺伝子が備わっているというのだ。

牝馬の持つ2つのX染色体のいずれもが、大きな心臓を伝えることのできる特徴を持っている場合、原著ではこのような牝馬を『ダブルコピー牝馬』と呼んでいる。

自分が好きな血統研究家であるケン・マクリーンも、自身の著書『Genetic Heritage』のなかで『Pocahontasがダブルコピー牝馬であることは間違いないと思う』と述べている。

Pocahontasは、息子であるStockwell、King Tom、Rataplanといった名種牡馬を通じて後世に大きな心臓を伝えた。

このような驚異の牝馬Pocahontasと、大きな心臓を持つ馬たちとの遺伝的関連性は『Xファクター』と呼ばれている。

次回のXファクターでは、X染色体の遺伝径路(ハートライン)についてアップする予定。


最後に、このシリーズにおいて自分が参考にした文献を以下に記しておく。

『X FACTOR:What it is & how to find it:The Relationship Between Inherited Heart Size and Racing Performance』Marianna Haun

『UNDERSTANDING THE POWER OF THE X FACTOR:Patterns of Heart Score and Performance』Marianna Haun

『Genetic Heritage』Ken McLean

『恐るべしスピード遺伝子』城崎 哲
[ 2013年01月06日 14:35 ] カテゴリ:配合・遺伝 | TB(-) | CM(0)
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