私的血統論

馬産地・日高地方から競走馬の血統を考察するブログ
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Xファクター 第2回 『X染色体の遺伝径路(ハートラインまたはXライン)』

Xファクターに関する記事の第2回は、X染色体の遺伝径路について具体例(血統表)を参考にしながら書いていきたい。

第1回の記事では、大きな心臓という特徴はX染色体を通じて伴性遺伝するという考え方があると述べた。

その遺伝の伝達方法については前回文章で説明したが、今回はもう少しわかりやすいように血統表を見ながら話しを進めていく。

過去にこの記事を書いた時は、2007年度のダービー馬ウオッカと2008年度のダービー馬ディープスカイの血統表を例にして話を進めたので、今回もこの2頭を牡馬・牝馬の例として取り上げる。

まずは、ディープスカイを例に『牡馬におけるX染色体の遺伝径路』を血統表を参照しながら説明したい。

ディープスカイ

ディープスカイは牡馬なので、父であるアグネスタキオンは息子のディープに対してY染色体を伝えるのみで、X染色体は伝えていない。

牡駒がX染色体を受け継ぐには、自身の母馬から受け継ぐしかなく、ディープの場合は母アビからX染色体を受け継いだことになる。

このような法則をもとに、X染色体の遺伝径路(以下、『Xライン』と記す)を血統表のなかで色分けしてみた。

色が付いているところが、牡馬(ディープスカイ)におけるXラインである。

基本的には青で色分けしているのだが、ディープの血統表には青よりも赤による色分けが多いのがお分かりかと思う。

赤で色分けしているのは原著である2冊の本『X FACTOR』において、大きな心臓を持つ馬として、あるいは大きな心臓を産駒に伝える馬として紹介されている馬たちだ。

Xライン上にこれだけ多くの大きな心臓という特徴を持つ馬が存在するのだから、かなりの確率でディープスカイの心臓は通常のそれよりも大きいことが推測される。

一方、牝馬におけるXラインをウオッカを例に見てみよう。

ウオッカ

牝馬は父母両方からX染色体を1つずつ受け継ぐので、上記のように牡馬と比べてXラインが倍近くになる。

多くのXラインがあるからと言って、Xライン上のすべてのX染色体を受け継ぐわけではない。

上記血統表に記したXラインは、あくまでこれらのうちのいずれかのラインを辿ったX染色体(牝馬の場合は2本、牡馬の場合は1本)を受け継いでいるという意味である。

ちなみにウオッカの血統自体に視点を絞って言えば、ディープスカイのそれに比べて赤の色分けが少ないことがわかる。

これは原著『Xファクター』における調査が米国主体によるものであり、ディープスカイのような米国血脈主体の血統においては、自然と赤の色分けが多くなりやすい点に起因する。

ディープスカイに比べると、ウオッカの血統は欧州血脈や日本の血脈が多いので赤の色分けは少ない。

しかしながら、父タニノギムレットあたりはその血統からかなりの可能性で大きな心臓を持っていると思われるし、母系のトウショウボーイも同様である。

自分の考えでは、ウオッカの血統表でもかなりの部分で赤の色分けができると考えているし、ウオッカ自身少なくともシングルコピーか、あるいはダブルコピー牝馬の可能性さえあると考えている。

シングルコピーやダブルコピーについては、また別の記事で紹介したい。

ただ、『大きな心臓を受け継いでいる可能性が高い』と判断できる血統馬が、必ず活躍するとは限らないのが競馬である。

オーストラリアにおける競争馬の心臓調査の第一人者、Stewart博士の言葉が原著『X FACTOR』のなかで紹介されている。

『…ある馬が大きな心臓を持つ馬だと判明した場合、ほかに多くの要素が競走能力に関係している事実に注意を払わない限り、思わずその馬に対して過大な期待をかけてしまう危険性がある…』

Stewart博士によれば、他の馬たちよりも小さい心臓を持ちながらも、それを補って余りある多くの長所をもって活躍した名馬も存在するという。

博士の言葉を裏付ける事実として、原著ではBold RulerとCaroの例を紹介している。

この2頭は死亡解剖の結果、普通サイズの心臓だったことが確認されている。

Bold Rulerは現役時米国にて33戦23勝し、米年度代表馬になるほどの活躍を見せた。

種牡馬になってからも米チャンピオンサイアーになること8回。

輝かしい成績である。

Caroは仏英で19戦6勝し、降着により繰り上がり優勝した仏2000ギニーのほか、ガネー賞なども制している。

Caroの場合は種牡馬としてのほうが大成し、多くの活躍馬を輩出し仏リーディングサイアーに輝いた。

このような事例からも、心臓の大きさだけが競争能力に影響を与えるものではないのである。

ただ一方で、大きな心臓を持っていることに越したことはないのも事実だ。

では、何を基準に心臓の大小を決めているのか。

第3回では、その心臓のサイズをわかりやすいように数値化した『ハートスコア』というものについて書く。
[ 2013年01月07日 18:02 ] カテゴリ:配合・遺伝 | TB(-) | CM(0)

Xファクター 第1回 『Xファクター』とは何か

旧ブログでも扱ったが、今後このブログでも何度か『Xファクター』的な考え方が出てくることが予想されるので、過去のアーカイブとして全5回に分けてアップしておく。

そもそも『Xファクター』とは何か。

自分が初めてXファクターを知ったのは、十数年前にケンタッキーのセリ市に行った際、現地の本屋で見つけたMarianna Haun著の『X FACTOR:What it is & how to find it:The Relationship Between Inherited Heart Size and Racing Performance』という本を手にしたときである。

副題『心臓サイズの遺伝と競走能力の関係』というフレーズを見ただけで興味を持ってしまい、とりあえず購買して後でじっくり読んだ。

この本は、Secretariatの活躍と死後の解剖のことから文章が始まっている。

Secratariatの心臓は、解剖を担当した獣医の推定によれば約10kgの重量があったらしい。

この重量は、通常の競走馬のそれに比べて約2倍の重さだ。

また、Secretariatの競走馬時代のライバルShamもその死後に同じ獣医によって解剖されたが、Shamの心臓重量は8.2kgだったという。

こちらも通常の馬よりもはるかに大きい心臓である。

一方、オーストラリアにおいては、名馬Phar Lapもまた大きな心臓を有していたらしく、その重量は6.4kgだった。

ちなみに、原著では重量の単位はポンドになっているが、自分はキロのほうが慣れているので、この形で話しを進めていきたい。

注目すべきは、SecretariatとShamの母の父がいずれもPrincequilloだった点である。

Princequilloはブルードメアサイアーとして非常に優れた成績を収めて、米国では8回リーディングBMSに輝いている。

オーストラリアでは血統やそれに関する遺伝学も活発に研究されているようで、この国の研究者たちはSecretariatやShamなどの例から『心臓の遺伝はX染色体を通じて伴性遺伝(性染色体上にある遺伝子による遺伝)するのではないか』と推測した。

競走馬には、Y染色体とX染色体という2種類の性染色体がある。

牡は、Y染色体とX染色体を1本ずつ持っている。

牝は、Y染色体は持っていないが、その代わりにX染色体を2本持つ。

産駒が生まれる際、種牡馬はYかXのうちの1本を、繁殖牝馬はペアのXのうち1本を伝える。

このとき、種牡馬がY染色体を伝えれば牡馬が、X染色体を伝えれば牝馬が生まれる。

つまり、性別の決定は種牡馬の側に委ねられる。

繁殖牝馬は2つのX染色体を持つが、1つは父側から、もう一つは母側から受け継ぐ。

繁殖牝馬がどちらのXを産駒に伝えるかという点については、まさに神のみぞ知るというところだが、いずれにしろ母馬は産駒にX染色体しか伝えないのである。

これを踏まえてSecretariatとShamについて考えると、大きな心臓を持つこの2頭の血統面における共通項は、BMSにPrincequilloを持つ点にある。

2頭にとってPrincequilloは母側にあるのだから、もし大きな心臓とPrincequilloの間に遺伝的な関連性があるとしたら、その特徴は伴性遺伝という形でX染色体が関係していることになる。

『X FACTOR』の本のなかで、遺伝学者のGus Cothran博士はこのように述べている。

『…もしオーストラリアの研究者たちが言うように心臓の大きさが伴性遺伝するとしたら、その特徴はある一つの原因に辿りつけるような遺伝子の突然変異によるものだろう…遺伝子の突然変異というものは、何百年経っても変化するものではない…』

この考え方を背景に調査した結果、Pocahontas(1837)という牝馬と通じてSecretariatと1764年生まれの名馬Eclipseの間に遺伝的関連性が認められたという。

Eclipse

Eclipseは今から200年以上前に生まれた馬だが、当時は名馬を埋葬する際に心臓、蹄、睾丸そして耳を切り取る風習があったらしく、記録によればEclispeの心臓重量は14ポンド(6.4kg)であった。

Eclipseのその大きな心臓は、Cothran博士の言うように突然変異の産物として備わったのだろうか。

さて、そのEclipseの心臓の大きさが、200年以上の時を経てSecretariatに受け継がれたというのだ。

そして、その遺伝径路上にはPocahontasという牝馬が深く関わっているらしい。

Pocahontasは33歳まで生きて、20年間も繁殖生活を送った生命力にあふれた馬だった。

Pocahontasの血統を調べると、父方と母方のそれぞれ7代目にEclipseの娘Everlastingの名前を見つけることができる。

Pocahontasの血統におけるEverlastingの位置は、X染色体の遺伝径路(原著ではこれを『ハートライン』や『Xライン』という名前で呼んでいる)上にある。

このことから、Pocahontasが持つ2つのX染色体には、いずれもEclipseの大きな心臓を受け継ぐ遺伝子が備わっているというのだ。

牝馬の持つ2つのX染色体のいずれもが、大きな心臓を伝えることのできる特徴を持っている場合、原著ではこのような牝馬を『ダブルコピー牝馬』と呼んでいる。

自分が好きな血統研究家であるケン・マクリーンも、自身の著書『Genetic Heritage』のなかで『Pocahontasがダブルコピー牝馬であることは間違いないと思う』と述べている。

Pocahontasは、息子であるStockwell、King Tom、Rataplanといった名種牡馬を通じて後世に大きな心臓を伝えた。

このような驚異の牝馬Pocahontasと、大きな心臓を持つ馬たちとの遺伝的関連性は『Xファクター』と呼ばれている。

次回のXファクターでは、X染色体の遺伝径路(ハートライン)についてアップする予定。


最後に、このシリーズにおいて自分が参考にした文献を以下に記しておく。

『X FACTOR:What it is & how to find it:The Relationship Between Inherited Heart Size and Racing Performance』Marianna Haun

『UNDERSTANDING THE POWER OF THE X FACTOR:Patterns of Heart Score and Performance』Marianna Haun

『Genetic Heritage』Ken McLean

『恐るべしスピード遺伝子』城崎 哲
[ 2013年01月06日 14:35 ] カテゴリ:配合・遺伝 | TB(-) | CM(0)


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